青森家庭裁判所八戸支部 昭和54年(家)665号 審判 1980年3月03日
申立人 八木沢美恵
主文
本件申立を却下する。
理由
1 本件申立の要旨
申立人は、その氏「八木沢」を「三沢」に変更する旨の審判を求めたが、その理由は、申立人は離婚に際し復氏せず婚姻中の氏「八木沢」を称することにしたが、離婚後の生活において実家の世話にならざるを得ないので、旧姓である「三沢」に戻りたく、本件申立に及んだ、というにある。
2 当裁判所の判断
申立人の戸籍謄本、同人に対する当裁判所の審問の結果及び家庭裁判所調査官○○○作成の調査報告書(昭和五五年一月一二日の調査書を含む)によれば、申立人は三沢誠一、同よしの二女として出生し、「三沢」の氏を称していたところ、昭和四〇年三月一日八木沢守と婚姻して夫の氏「八木沢」を称することとしたこと、そして、昭和五四年三月三〇日協議離婚したが、同日離婚の際に称していた氏を称する旨の届出をなし、離婚後も「八木沢」の氏を称していること、申立人が離婚の際に称していた氏を称しようとした動機は復氏しなければ再び前夫との「より」が戻るのではないかと期待していたことにあること、ところが、同年一一月末頃に前夫との間で離婚に伴う財産分与の話合いが成立し、実家に戻つて生活するようになつてみると、親や兄弟から「三沢」の姓に戻つた方がよいと勧められ、申立人としても旧姓に復して心機一転したいと考えるようになり、同年一二月一二日本件申立に及んだものであること、以上の各事実が認められる。
ところで、民法七六七条一項には婚姻によつて氏を改めた者は協議離婚によつて婚姻前の氏に復する旨規定され、同二項には同一項により復氏した者は離婚の日から三か月以内に届出ることによつて離婚の際に称していた氏を称することができる旨規定されているので、離婚により復氏することが原則であるから、戸籍法一〇七条一項に定める氏の変更についての「やむを得ない事由」については旧姓に復しようとする場合にこれを緩やかに解しようとすることも、全く理解できないわけではない。しかしながら、右立法(民法七六七条二項)の趣旨は氏のもつ社会生活上の意義を考慮して、離婚により復氏する者が被る社会生活上の不利益を除去するために三か月以内に届出をするという選択権を付与することにより婚姻中の氏を離婚後も称することができる途を開いたにすぎないものであつて、氏の呼称の安易な変更を許容をしているものではなく、三か月を経過すればその選択権を行使することができなくなる反面、ひとたびその選択権を行使したものは、自らこれに拘束されることは覚悟すべきであるとも言えるのである。したがつて氏変更の「やむを得ない事由」の解釈にあたつてもことさらに緩やかに解することは相当でないと思料される。
そこで、本件事案についてこれを見るに、申立人が一旦婚姻中の氏を称する旨の届出をしてから本件申立をするに至るまでの間に事情の変化があつたことは窺えるが、既に八か月以上も経過しており、日常生活においてさしたる障害が生じているわけでもなく、旧姓に復した方がよいとする親、兄弟の期待や申立人の主観的な事情に基くものであるに過ぎないから、末だ「やむを得ない事由」が存するものとは認め難い。なお、申立人は離婚に称していた氏を称する旨の届出をする際、戸籍役場の係員から旧姓に復することは容易である旨説明されたとも述べられているが、これを裏付ける資料はない。
以上のとおり、申立人の氏を変更すべき「やむを得ない事由」は見当らないので本件申立を却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 孕石孟則)